退職に関するトラブルについて(16)
今回は、「退職予定者による引継ぎ拒否」を巡るトラブルについて取り上げます。
近年、退職の意思を示した従業員が、在職中にもかかわらず業務引継ぎに非協力的な姿勢を取ったり、極端な場合には全く応じないというケースが目立つようになっています。
とくに情報システムや人事労務、経理など専門性の高い部署では、適切な引継ぎがなされないことにより、事業運営に深刻な支障が生じるおそれもあります。
しかし、実務上は「引継ぎをしないこと」を理由に懲戒処分や退職金の不支給といった制裁を行うことは、法的には慎重な判断が求められます。なぜなら、労働契約上、引継ぎ義務そのものが明示されているケースは多くなく、また裁判例でも「業務の平穏な終了」や「善管注意義務」など抽象的な根拠にとどまるからです。
そのため、会社としては、退職の申出を受けた段階で、できる限り早期に「引継ぎの必要性」「その内容」「完了目安」を文書やメールで明示し、記録に残す対応が重要となります。場合によっては、上司・人事担当者・後任予定者などを交えた三者面談を設け、具体的な手順を共有しておくことも有効です。
また、就業規則や雇用契約書に「退職時には業務の適切な引継ぎを行うこと」「引継ぎが完了しない場合には退職日を延長し得る」といった規定を設けておくことで、一定の予防効果を持たせることもできます。
ただし、現実には本人の協力なしに強制的に働かせ続けることは困難ですので、最終的には業務マニュアルやクラウドの整備、属人化リスクの分散といった日頃からの体制づくりがカギとなります。
日々の雑感
先日、みなとみらいの花火を子どもと見に行きました。少し遠目でしたが、十分きれいで楽しめました。
「下のほうも光ってるよ」と子どもが気づき、着火元が赤くなっているのを見て「ほんとだねー、近くだと見えたかな」とのんびり話しながら、目が疲れたという子どもに合わせて帰宅しました。
予定時刻を過ぎても花火が終わる気配がなく、変だなと思っていたところ、あとで火事があったと知り驚きました。結果的に早めに帰ってよかったようです。 (2025年8月7日 文責:下田 和宏)
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