【労働裁判例を知り、会社を守る!】第10回 精神疾患の疑いのある従業員への対応は・・・?

今回は「精神疾患の疑いのある従業員を直ちに解雇してしまったのは違法(無効)」と判断された裁判例(最高裁平成24年4月27日判決)をご紹介いたします。
この会社は、パソコンの製造等を営む会社でした。
 とある従業員が「約3年間に渡って、盗聴、盗撮などの監視を受け続けている」と、実際には存在しない被害妄想を理由として40日にわたって無断欠勤を続けていたところ、会社がこの従業員を直ちに解雇してしまったのですね。
従業員は会社に対して「解雇は無効だ」と主張し、従業員であるという地位の確認と賃金の支払いを求めて裁判を起こしました。

そして裁判所は「解雇は無効」と判断しました。

…40日にわたって無断欠勤をしていたというのであれば、一般常識的には解雇が認められそうな気もします。
この裁判例では、なぜ会社は敗訴してしまったのでしょうか?
 一番根本的な原因として、会社は従業員に対して、安全配慮義務を負っているにもかかわらず、精神疾患の疑いに対して何らの対策もしなかったということが挙げられます。

具体的には、欠勤理由の精査、精神科への健康診断の実施、その結果に応じた治療の推奨、休職処分、配置転換などを一切していなかったのですね。
 ここでポイントとなるのは「ただやる気が無い従業員」と「精神疾患の疑いがある従業員」を適切に区別するという点ですね。

 精神疾患の疑いがあるのであれば、適切な治療を受けてもらうことによりそれが治癒し、また問題無く業務に復帰出来るのかもしれないのです(その一方で、ただやる気が無い従業員に対しては、治療ではなく業務指導をすべきという話になります)。
会社としては、従業員を雇った以上は、その従業員が健康かつ最大限にパワーを発揮出来るよう、常に配慮・対策をし続ける必要があるということですね。

 

弁護士の徒然草

この人手不足の時代、人材確保は喫緊の問題として常に存在していると思います。
なかなか「裁判所や労働法の考えるような理想的な職場環境」を確保し続けるのは難しいと思いますが、こういった裁判例を参考に、少しでも良い職場環境が整えられるよう、皆様と一緒に頑張っていきたいと思います!

                                                                                                                 (2025年5月26日 文責:佐山 洸二郎)