退職に関するトラブルについて(19)

ある日、退職間近の社員が、大量の業務メールを自分の私用アドレスに転送していた、あるいは社内の共有フォルダからUSBにデータを保存していた――こうした相談は決して珍しくありません。
いわゆる情報漏洩というと、外部からの不正アクセスや誤送信などを想像しがちですが、実際には「退職予定者による静かな持ち出し」こそが、企業にとって見えにくく深刻なリスクとなることがあります。

とくに近年はクラウドツールの普及により、個人端末から社内情報にアクセスしたり、メール転送やデータ保存が簡単にできてしまうため、「悪意があったわけではない」「便利だからやった」といった形で、情報が意図せず個人に蓄積される構造的なリスクが高まっています。

しかし、競業先や再就職先でそれらの情報が使われていると判明した場合、秘密保持義務違反や不正競争防止法違反が問題となる可能性も十分にあります。

そこで、実務で企業がとるべき対策ですが、まず重要なのは、「持ち出さないよう信頼する」のではなく、持ち出せない仕組みを用意するという発想です。
退職届を受け取った段階で、秘密保持や情報持ち出し禁止に関する誓約書を交わすといった形式的対応だけでも、一定の心理的抑止力を持ちます。

さらに、社内IT担当者と連携し、メール転送の設定状況やUSB機器の使用履歴、クラウドからのファイルダウンロード記録などを確認する運用も有効です。退職日が近づいたら、徐々にアクセス権限を絞っていく、機器返却のタイミングを早めるなど、

運用としての“出口管理”を標準化しておくと、トラブル発生の芽を事前に摘み取ることができます。

情報漏洩の未然防止は、法的な責任追及よりもシステム・運用・社内ルールの三層で防ぐ設計が、現実的で確実なリスク管理といえるでしょう。

 

日々の雑感

少し遅くなりましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。気がつけばすでに1月も下旬。年始気分が抜けきらないまま、通常業務に引き戻された方も多いかもしれません。気を引き締めつつも、無理なくリズムを取り戻していきたい時期ですね。                                                                                                       (2026年1月26日  文責:下田 和宏)