退職に関するトラブルについて(18)

今回は、退職にあたって引継業務をしない従業員に対して、懲戒処分や退職金の制限が可能かという論点を扱います。

 

まず押さえておくべきは、懲戒処分は原則として“在職中の社員”にしか行えないという点です。
すでに退職の効力が発生している者に対して懲戒解雇などの処分を下すことは、法的には無効となります。
ただし、「退職の意思は示されていたが、まだ退職日は到来していない」という状態であれば、退職前の非違行為(例:引継ぎ拒否、業務妨害など)に基づく懲戒処分を行う余地はあります。もっとも、処分の効力を争われる可能性を考えれば、慎重な判断が必要です。

 

次に、退職金の不支給や減額についても、就業規則や退職金規程に「不支給事由」が明確に定められていることが前提となります。
さらに、「引継ぎ拒否」の程度が極めて悪質であり、企業に実害が発生したことが証明できなければ、不支給措置が違法とされるおそれもあります。
実務上では、「一部の義務不履行があっても、それだけで退職金全額を不支給にするのは過剰である」と判断される傾向が強いといえます。
ただし、不支給にするなどはできませんが、退職金にも査定があるはずですから、査定の評価を低くすることは可能な場合があります。

 

以上を前提に、企業としての対策としては、以下が重要となります。

①退職日到来前の段階で、引継ぎ拒否の状況を証拠化する(メールでの注意・指導記録、就業規則の根拠明示、懲戒手続に入る旨の通知 など)
②退職金規程の見直し(「誠実な業務引継ぎの実施」が支給条件のひとつである旨を明記することで、最低限の抑止力が期待できます)
③引継ぎ誓約書や合意書の活用(特に重要職務に就く従業員については、入社時や退職申出時に誓約書を取得しておくと、対応の選択肢が広がります)

 

日々の雑感

まだ少し早いですが、今年も残すところあとわずかとなってまいりました。
本年も大変お世話になり、ありがとうございました。年末年始は何かと慌ただしくなりますが、どうかご自愛のうえ、穏やかな新年をお迎えください。                                                                           (2025年12月11日  文責:下田 和宏)