労働事件裁判例のご紹介

今回からは、労使間で争いとなりやすい事項に関する、実際の労働事件の裁判例を紹介していきます。

特に、比較的新しい、会社に有利な判決となった裁判例を取り上げたいと思います。労働問題を考えるにあたって参考になることはもちろん、事案としても面白い事件を紹介しますので、軽くお読みいただければ幸いです。

今回紹介するのは、無断欠勤した社員の解雇が有効と認められた事件です(東京地判令和5.11.16)。
裁判の概要は次のとおりです。

 

試用期間中の社員Aはある日、刑事事件の被疑者として逮捕され、身柄を拘束されてしまいました。当然、会社に出社することもできないため、有給休暇を取得することとしました(連絡は代理人が行いました)。最初の10日間ほどは有給休暇で何とかやり過ごしていましたが、身柄拘束も長引きついに有給休暇もなくなってしまいました。そこでAは、理由は明かさないまま、欠勤させてもらうよう会社に求めました。会社からは欠勤する理由の説明を求められましたが、なお理由を説明せずに5日ほど出社せずにいたところ、無断欠勤を理由に会社から解雇されてしまいました。Aはこれを不服として、解雇が無効であるとして裁判を起こしました。

 

これに対して裁判所は、会社から欠勤する説明を求められたにもかかわらず、なお理由を明かさずに欠勤したことによって、会社とAとの間にある、労働契約で重要となる信頼関係が毀損されたとして、会社による解雇を有効としました。

 

この裁判例の面白いところは、珍しく解雇が有効とされたということだけでなく、Aが刑事事件で逮捕勾留されたことは解雇を正当付ける理由に挙げられていない点です。あくまでも、理由を説明せずに欠勤した点をもって解雇を有効としています。また裁判所は、欠勤の連絡だけはあったことを踏まえ、仮に「無断欠勤」ではないとしても、理由の説明もなく欠勤したことは「社員としての適格を欠く場合」という解雇事由に当たるとも言及しています。

 

本事案は試用期間中の解雇であるため、正式に雇用されている場合にそのまま妥当しないことはあり得ます。それでも、数日間の無断欠勤をもって解雇を有効とした事案として、大いに参考になると考えられます。

 

Atty’s  chat

先日、劇団四季のミュージカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観劇してきました。原作映画が好きなだけに、あの面白さを舞台で表現できるのかと不安もありました。しかし、そんな心配は全くの杞憂で、迫力ある演出にあふれた素晴らしい舞台となっていました。少しでも興味のある方は、是非ご覧になってみてください。舞台の上を疾走するデロリアンは必見です。                                                                                                      (2025年7月23日 文責:越田 洋介)