司法統計からみる労働紛争

最高裁判所は毎年、その年における訴訟等に関する統計を公表しています。それが「司法統計」で、どなたでもHP上で確認できます。今回は、令和5年の司法統計から、そこに表れた労働紛争の傾向を見てみたいと思います。

 

訴訟・審判の数
労働紛争は主に、通常の裁判で争われる労働訴訟と、審判手続で争われる労働審判に大別できます。
そして、令和5年中に新たに生じた労働訴訟の数は、約3800件でした。これは、ここ30年間では令和2年に続く件数です。内訳は、未払賃金などを求める金銭目的のものが約2800件、解雇等を争う金銭目的以外のものが約1000件でした。

労働審判については、新たに生じた労働審判の数が約3500件で、その内訳は未払賃金などを求める金銭目的のものが約1300件、解雇等を争う金銭目的以外のものが約1650件、その他が約550件となっています。

 

数字から見えてくること
まず間違いなくいえることは、労働紛争の件数が減少する様子はなく、毎年多くの訴訟等が発生しているという点です。昨今の労働者の権利意識の向上や、ネット等を通して労働問題に関する情報が入手しやすくなった状況を考慮すると、今後もこの傾向は続くと考えられます。会社としては、ますます隙のない労務管理等が求められるでしょう。

 

また、内訳をみると、金銭目的のものが合計約4100件と、大きな比重を占めています。さらなる細かい内訳は公表されていませんが、そのほとんどが未払賃金請求であろうことが考えられます。近年は、始業前や終業後の少しの時間(着替え時間など)についても時間外労働として未払賃金を求めてくるケースもあります。今一度、労働時間の管理ができているか、確認する必要があるでしょう。

金銭目的以外のものも合計約2650件とあり、こちらも解雇無効等がそのほとんどを占めていることが考えられます。裁判になった場合、解雇の有効性が認められることは非常に稀です。仮に解雇相当と考えられる場合でも、あえて合意退職として処理するなど、安全策を講じていくことも考えられます。

 

以上、令和5年の司法統計をみてきました。労働紛争の実情を踏まえると、会社として、労働紛争を防止するために徹底した労務管理と慎重な対応が求められるといえるでしょう。

 

Atty’s  chat

来週、休暇を取って奈良県へ旅行へ行ってきます。楽しみの一つが、吉野山の千本桜です。ある程度は開花時期を見越して予定を立てたのですが、ここ最近の天候不順から、もはや桜がどうなっているか全く予想できません。もし桜がだめなら、葛餅と柿の葉寿司をたらふく食べて、グルメ旅を楽しもうと思います。                       (2025年4月3日  文責:越田 洋介)