【労働裁判例を知り、会社を守る!】第15回 プライベートで飲酒運転した従業員でも解雇できない?
今回は、プライベートで飲酒運転をした従業員を直ちに懲戒解雇をしてしまい、それが無効と判断された裁判例(福岡高裁平成18年11月19日判決)を紹介します。
今回は、ある県の公立中学校が舞台です(県と公務員との関係ではありますが、その考え方は会社と従業員との関係にも同じくあてはまります)。
その中学校の教師が、飲酒運転をして罰金20万円の刑事罰を受けたところ、教育委員会がその教師を懲戒解雇(正確には懲戒免職ですが本稿では便宜上解雇と表記)し、教師がその解雇を無効と主張して起こした裁判です。
裁判所は、この解雇を無効と判断しました。
その大きな理由は3つあります。
まず1つ目が、過去に懲戒処分歴が無かったことです。
懲戒処分は、いきなり重い処分で無く、軽い処分から1つ1つ段階を追って行っていく方が法的に有効となる可能性が高いと言われているのですが、それが無かったのですね。
また2つ目として、弁明の機会が与えられていなかったことが挙げられます。
これまでの回でも何度も話に出てきていますが、懲戒処分をする際は予め本人の弁明の機会を作らないと、会社側が事実関係を正確に把握出来なかったり、処分の種類も決定し辛いので、やはりその機会を作るのが望ましいとされているのですね。
また3つ目として、飲酒運転は停職という懲戒処分指針があったという点が挙げられます。
そういう懲戒処分指針があったのであればやはりそれに反した処分は法的に無効となる可能性が高いのですね。
もし「飲酒運転は懲戒解雇」という指針があったとしてそれだけで直ちにこの件の結論が変わったとは言えないですが、やはり重要な一つの判断要素になったはずです。
以上、会社としては、①段階的な処分を心掛ける、②弁明の機会を与える、③就業規則等に従った処分にする、という3点を意識する必要があるということを教えてくれる裁判例でした。
弁護士の徒然草
昨日はやけに暖かくて一瞬頭が混乱しましたが、もう12月下旬で真冬の入り口ですね。
あっという間に今年も終わりに近づいてきました。今年も皆様には大変お世話になり、ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。 (2025年12月22日 文責:佐山 洸二郎)
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