【労働裁判例を知り、会社を守る!】第5回 従業員が過労自殺した場合の会社の責任は?

今回は「従業員が過労により自殺をしてしまい、その責任は会社にある」と判断された裁判例(最高裁判所平成12年3月24日、事件日は平成3年8月27日)をご紹介いたします。

 この裁判例の会社は、広告代理店でした。この会社のある従業員が、入社後1年5か月で自殺をしてしまい、父母が会社に対して損害賠償請求をしたという事案です。
 従業員はラジオ推進部に配属されて意欲的に業務を行っていたのですが、次第にその業務が過大になっていき、帰宅出来ない日が続いたり、帰宅出来たとしても明け方で、すぐにまた出勤するという生活が続いてしまっておりました。
そのような状況ですので、次第に心身の調子を崩し、周りから見てもその様子はわかるようになっていました。
そしてある日、自宅の風呂場で自殺しているのが発見されました。
 裁判所は「使用者は、従業員の業務の遂行に伴う負荷が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」として、会社の損害賠償責任を認めました。最終的には、会社が1億6800万円を支払うという内容で終了(和解)しています。

この判断のポイントとなったのは3点で「長時間労働が日常的になっていたこと」、「健康状態の悪化を認識しながら上司などが適切な措置を取らなかったこと」、「従業員の性格に配慮した人員配置が出来ていなかった」ことです。
どれも当然のことのように見えますが、これらが全て徹底出来ている企業は意外と少ないのではないでしょうか。
 特に、「会社の責任」とは言っても、実際は社長が全ての従業員の業務に目を光らせることは不可能で、上司など身近な従業員が、部下などが業務過多になっていたり体調を崩していたら、見て見ぬふりをしてはいけないのです。
会社としては、会社の従業員全員が、会社に代わって自分や周囲の労務管理を怠ってはいけないということを周知していく必要があるのですね。

 

弁護士の徒然草

今でこそ「会社は従業員の健康に配慮しなければならない」というのは常識的になってきています。ただ、この裁判例の当時平成12年は、まだ一般的にそういう意識が希薄だったのかと思います。
現在の様々な法的ルールは、こういった過去の悲しい事件の積み重ねにより形成されてきていると考えると、より気が引き締まる思いです。                                                                                      (2024年11月25日  文責:佐山  洸二郎)