実録・団体交渉(2)

 前号から、具体的な事例を基にして、団体交渉の流れについてご紹介しております。

ご相談の内容としては、事業所の一部閉鎖に伴い、当該事業所の従業員が労働組合を作って団交を求めてきた、というものでした。

 

 団体交渉への基本的な進め方は2つあります。1つは、もちろん法律的なレベルの話です。「労働契約法上、適法な解雇だ」とか「裁判例に照らせば不当労働行為に当たらない」とか、いわゆる「中身」の話で、もちろんこれが主戦場になりますが、団体交渉は「交渉」ですから、単に法律論だけではうまく対処できません。極端な話、最終的に中身の話で勝ったとしても、時間的・金銭的コストをかけ過ぎたり、企業のレピュテーション(風評)に深刻な影響があったりすれば、本当に勝ったのかよく分からなくなってしまいます。「中身」の戦いはしっかりしつつも、労働組合が嫌がること、つまり戦略的な戦いも同時にしなければならないということです。労働組合は、団体交渉ばかりやっていますから、このあたりの駆け引きを熟知していますが、意外と、会社側の専門家が、そのあたり御座なりだったりします。

 

 今回のケースで気になったのは、やはり、戦略的な部分でした。はっきりいって、事業所の閉鎖というのは、まさに会社の経営判断であり、裁量によるものですから、法律論で、致命的に負けることはなさそうな事案でした。もちろん、未払賃金や休憩時間についてはしっかりと対応しなければなりませんが、いくら従業員側が主張しても、不採算部門や事業所を閉鎖し、それに伴って、異動させたり整理解雇すること自体はやむを得ません。したがって、法律上は怖くありませんでした。怖いのは、現在5人しかいない組合員が、他の事業所の従業員を勧誘し、全社的な組合になることです。規模が大きくなれば発言力も強まりますし、ストライキなど強権的な方法も取ることができます。また、通常、労働組合には上部団体があります。普通の従業員が組合を結成するといってもノウハウがありませんから、フランチャイズのように、上部団体に組合費を払い、機関紙の作成方法や、団交時の人出しなどを助けてもらうのです。

 

 上部団体としても、規模が大きければ上納金も増えるので、力を入れてきますし、規模が小さければ人も時間も割けない、というのが実情で、かなりビジネスライクと言えます。このあたりも考慮して、戦略的に戦っていくのが、団体交渉の肝です。次回に続きます。

 

グルメ弁護士のつぶやき

 グルメ弁護士たるもの、単に飲み食いするだけでなく、飲食店の経営もやらなければならないと思い至り、この度、焼肉屋をやることになりました。意味不明だと思いますが、年内に開店予定です。続報をお待ちください!(笑)

                                   (令和元年10月7日 文責:石﨑 冬貴)