【労働裁判例を知り、会社を守る!】第3回 社内のセクハラを放置すると会社にも責任が生ずる?

今回は「社内で発生していたセクハラについて、加害者だけでなく会社も責任を負った」という裁判例(福岡地裁平成4年4月16日)をご紹介いたします。

会社は出版社で、加害者(男性)は編集長で、被害者(女性)はその部下でした。
  加害者は、仕事上の関係者たちに、被害者について「けっこう遊んでいる」「おさかんで、今度は〇さんをくわえこんだみたいだぜ」「不倫しているみたいだ」などと言って誹謗中傷を行いました。また被害者には「不倫を知ってるよ。会社にとってもマイナスイメージだから、僕も困るんだよね。」などと直接言うなどの行為をしました。
  これらの行為が法的にセクシャルハラスメント(セクハラ)にあたることは間違い無く、加害者が被害者に対して損害賠償責任を負うことになりました。
 そして会社が、上記のようなセクハラ行為に対してどういう対応を行ったかというと…概ね「個人間の問題だから本人同士でしっかり話し合うこと」「解決しないのであれば被害者側が辞めるしかないこと」という態度をとったのです。
 これにより裁判所は「会社が、社内でセクハラが生じないように職場環境を整える配慮義務を怠った」として、会社にも加害者と同等の責任(加害者と連帯して165万円の損害賠償)が発生すると判断したのです。
では、会社としてはどのような対応をとれば良かったのでしょうか?

 まずは、被害者、加害者、そして関係者からヒアリングをした上で、会社として「実際にどのような事実があったのかの判断」を行うべきです。
 その上で、その事実が「法的にセクハラにあたるのか」を判断した上で、必要に応じて加害者に対し会社からの処分を行います。
 さらには、以降のさらなるセクハラや報復を防ぐため、加害者と被害者の部署を分けて接触しないようにするなどの対応が考えられます。これらの対応をとっていれば、被害者の退職や裁判沙汰になることを防げる確率はかなり高かったと思います。

 

弁護士の徒然草

セクハラというと、「男性から女性に対するもの」というイメージが強いと思います。
実際に、これまで起きているセクハラ事件のほとんどが、男性から女性に対するものです。
しかしながら法的には「女性→男性」「同性間」でもセクハラは成立するとされています。
この多様性尊重の時代に「男性か女性か」を明確に切り分けることは出来ませんので、この点は十分に注意が必要ですね。                                                                                                          (2024年9月17日  文責:佐山 洸二郎)