【労働裁判例を知り、会社を守る!】第2回 痴漢で罰せられた従業員でも解雇は出来ない?

今回は「痴漢をして刑事罰を受けた従業員を解雇出来るか」という点が争われた有名裁判例(東京地裁平成27年12月25日)をご紹介いたします。

この裁判例での会社は、某鉄道会社です。その従業員が、電車内で痴漢をして、刑事罰(罰金20万円)を受けました。そこで会社は、従業員を解雇したのですね。
そして従業員が「その解雇は無効だ」と主張して、裁判を起こしました。
裁判所の判断は…「解雇は無効(まだ従業員の立場がある)」というものでした。
結論だけを見ると…常識的に考えて「犯罪をして刑事罰を受けた従業員でも解雇出来ないのか?!」と思わざるを得ない部分もあります。

ただ、この事件の背景を見てみると、裁判所の判断にも一定の理由があることがわかります。
ポイントとなったのは、①業務外での行為だったこと、②報道されていないためその点で会社が損害を受けたわけではないこと、③この行為以外の勤務態度に問題が無かったこと、ですね。
要するに「従業員が刑事罰を受けたとしても、それが業務外の行為であって会社がほとんど損害を受けていなかったのであれば、解雇まではやりすぎ」ということなのですね。
日本の労働法と裁判所が、解雇について極めて高いハードルを課しているのがわかる一例かと思います。
ただし前回の裁判例同様「これが全ての会社、全てのケースであてはまるわけではない」というのも重要なポイントです。

例えばもう一つの類似した裁判例では…①痴漢を何度も繰り返して懲役判決(執行猶予付き)を受けたこと、②その前の痴漢行為で罰金刑を受けた時は「いかなる処分にも従う」という始末書を提出していたこと…などの理由から、解雇が有効と判断されました。同じ痴漢という犯罪でも、解雇が有効か無効かは、①回数、②それ以前の経緯、などによって結論が分かれるということが分かります。

 

弁護士の徒然草

いわゆる職業病というものなのか、電車内では万が一でも痴漢に間違われないように、「リュックなどの荷物は自分の前面に回しておく」「手は吊革付近を掴むなどして出来るだけ上げておく」「出来るだけ人がいない場所に立つ」など、必要以上に警戒するようになってしまいました。
…安全なのは良いのですが、なんとなく自分が滑稽に見えてしまいます(笑)              (2024年8月16日 文責:佐山 洸二郎)