実録・団体交渉(8)

「事業所の一部閉鎖に伴い、当該事業所の従業員が労働組合を作って団交を求めてきた」という事案について解説しています。

前回まで、団交の心構えについて解説しました。「分からないと答えてもよい」「無理に妥結しなくてよい」といった話ですね。

このケースでも、「服務線表」(笑)で言い合いになりましたが、結論的な要求としては、「事業所の閉鎖に納得できない」ということでした。

 

これはまさに経営権に関わる事項です。もちろん、雇用に直結しますから、ある程度の説明は必要でしょうが、最終的には労使で利害が対立する問題ですので、理解してもらうのは難しいし、その必要もない話です。このケースでも、当該事業所が不採算であること(特に、事業所の賃貸借契約満了に伴い、地代の値上げ交渉があった点)はしっかりと説明しましたが、最終的には、会社の経営判断ということをはっきりと伝えました。

 

従業員に対しては、他の事業所への配置転換も提案しましたが、勤務地が遠くなるということで、その事業所の従業員は全員拒否しました。そのため、雇用が守れませんでしたが、これは従業員側の選択ですから、やむを得ないことです。会社は従業員の保護者ではありません。議論は平行線になりましたが、貸し会議室でしたので、90分で時間となり、団体交渉は終了となりました。このあたりが外部の会議室のいいところですね。

 

組合側としては何も得るものがありませんでしたから、直後に第2回目の団交申入れがありました。結局同じ議題でしたので、会社とも協議し、「すでに回答済みである。新たな主張立証が出るか、別の議題でなければ応じない」と書面で回答することになりました。通常は2,3回団交をやってもよいのですが、今回は、丸っきり議題が同じで、組合側から「団交を開催する理由」について明確な回答がなかったため、そのような判断になりました。前半戦の「組合員の切り崩し」のところでも解説しましたが、この組合は、他の事業所の従業員まで波及する可能性が低かったという読みもあります。いずれにせよ、それ以来、組合側は何ら要求を行うことなく、自然消滅してしまいました。

 

団体交渉は、法律上の争点だけでなく、戦略や戦術といった別の次元の戦いもしなければならないというのを身にしみて感じた事件でした。

 

グルメ弁護士のつぶやき

第3波で政治も経済もてんやわんやですが、人々の意識は「気にする人は気にするしそうでない人は全く気にしない」で固まってきた気がします。この前、4人がリアルで店にいて、4人がオンラインで参加するというハイブリッドな忘年会をやってみましたが、それなりに楽しめました。今年も大変お世話になりました。来年こそは終息しますように!

                                                                                                                 (2020年12月22日 文責:石﨑冬貴)