退職に関するトラブルについて(22)
近年、従業員の転職が一般的になる中で、「退職後に同業他社へ転職された」「独立して顧客を引き継がれた」といった相談を受けることがあります。
こうした場合に問題となるのが「競業避止義務」です。
競業避止義務とは、退職後に会社と競合する事業を行ったり、競合他社へ転職したりすることを制限するものです。しかし、退職後の職業選択の自由は憲法上保障されているため、会社が自由に制限できるわけではありません。
例えば、就業規則や誓約書に「退職後5年間は同業他社への転職を禁止する」「全国どこでも競業を禁止する」といった規定があったとしても、その内容が広すぎる場合には無効と判断される可能性があります。
裁判例では、競業避止義務の有効性について、①守るべき企業利益が存在するか、②制限される期間や地域が合理的か、③対象となる業務の範囲が適切か、④代償措置があるか、といった点が総合的に考慮されています。
特に中小企業では、雛形の誓約書をそのまま使用しているケースも見受けられますが、実際に争いになった場合には有効性が問題となることがあります。
実務上は、全従業員に一律の競業避止義務を課すのではなく、営業秘密や顧客情報に接する役職者や営業担当者など、本当に保護すべき利益がある従業員に対象を絞る方が現実的です。また、期間についても1年程度にとどめるなど、合理的な範囲で設計することが重要になります。
競業避止義務は、定めれば当然に有効になるものではありません。
退職後のトラブルを防ぐためには、会社の利益と従業員の職業選択の自由とのバランスを踏まえた制度設計が求められます。
日々の雑感
小学2年生の娘は、毎年母の日や父の日に手紙を書いてくれます。今年は父の日が近づいてもその気配がなかったので、「今年は手紙をくれないのかな?」と聞いてみたところ、「父の日いつ? わかった、書くね」との返事でした。
父の日を忘れていただけのようで一安心でしたが、「催促して書いてもらった手紙」という事実に、少しだけ複雑な気持ちになったのでした。 (2026年6月18日 文責:下田 和宏)
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