よくあるご質問

 

Q1 会社を経営している者ですが、当社では即戦力となることを期待して中途採用枠で採用した従業員がいます。しかし、その従業員の仕事振りから能力不足と判断し解雇を通達しました。すると、その従業員は、これまで特に注意・指導されることもなく、今回初めて能力不足であると指摘されたのに、そのことで解雇というのは解雇権の濫用だ、この解雇は無効だ、と言っています。当社の対応は、解雇権の濫用にあたるのでしょうか。

A1

なお、当社では、就業規則に、職務遂行能力が不良と認めたときは解雇するといった内容の規定を置いています。
能力不足を理由として解雇する場合、就業規則の解雇事由に定めているからといって直ちに解雇できるわけではありません。解雇するには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります。そうでなければ、解雇権の濫用として解雇が無効となります。
能力不足を理由とした解雇の場合、能力不足の判断は容易ではありません。職務遂行上要求される能力は、採用状況(新規採用か中途採用か)や職務内容によって異なるので、その判断は慎重に行うべきでしょう。本件は、即戦力として期待されて中途採用されていますが、単に期待した能力がなかった、即戦力にならなかったという理由では能力不足とは認められないでしょう。質問からは、貴社がどの程度の能力を期待して採用したかまでは分かりませんが、専門性や高度の能力が必要とされる職種で待遇面においても優遇していたのであれば、その点も含めて解雇に客観的合理性、社会的相当性が認められるのか検討してみてください。
また、能力不足と判断する前に、貴社が従業員に対し、注意や指導をし、能力改善のための努力を尽くしていたのかも問われることになりますので、これまでの指導記録等を見返しどのような対応をとってきたのか確認してください。従業員のいうように、解雇通達の時点で初めて指摘されたとなれば、今回の貴社の対応は解雇権の濫用に当たる可能性が高いでしょう。

 

 

Q2 従業員が無断で休むようになるなど勤務態度に問題があったため指摘したところ、従業員が突然辞めると言い出し翌日退職届を提出しました。その際、これまでの給料をすぐに支払って欲しいと言われました。突然辞めておきながら、給料をすぐに支払えという従業員の言い分に納得がいかないのですが、当社としてはすぐに支払わなければならないのでしょうか。

A2

従業員が突然辞めたとしても、それまで働いた分の賃金を支払う義務を使用者は負います。通常の賃金の場合は定期に毎月支払えば問題ありませんが、退職した場合には従業員から支払の請求があってから7日以内に支払う必要があります。貴社としては、納得のいかないこともあるかと思いますが、従業員から給料の支払いの請求を受けた以上は7日以内に支払わなければなりません。

 

 

Q3 当社の役員の一人に、当初は従業員として勤務し勤続20年のときに従業員兼役員となった者がおります。その役員がこの度退職することになりました。現在当社は経営が悪化しており厳しい状況にあります。そこで、役員会で役員の退職金を凍結すると決定しました。この場合、従業員としての退職金を凍結することはできるのでしょうか。

A3

従業員兼役員の場合、役員としての権利と従業員としての権利は異なります。従業員としての退職金については、退職金規程の中で支給条件が明確に定められている場合は規程に従って支払わなければなりません。経営悪化により厳しい状況にあるからといって一方的に凍結するようなことになると労基法違反になりますので注意してください。本件の退職する従業員の方は勤続年数が20年以上で会社の状況も把握しているのでしょうから、従業員としての退職金を凍結することについて話し合いの場を設けてみるのがよいと思われます。

 

 

Q4 当社の幹部クラスの従業員が退職することになりました。有能な従業員でしたので退職を考え直すように説得したのですが、結局退職することが決まりました。この従業員が今後同業他社に就職したり、同業の新会社を設立するとなると、当社の利益が損なわれるのではないかと危惧しております。
当社では、就業規則に、退職後2年間は、同業他社に就職しないこと、違反した場合は退職金の支払いは半額にする旨の規定を設けています。このように就業規則に規定を設けてあれば、従業員から新たに誓約書をとらなくてもよいのでしょうか。

A4

退職後に競業避止義務を課すためには、就業規則の規定や個別の合意が必要となります。退職後においては従業員の再就職に影響を与えることになるため、単に就業規則に規定を定めておけばよいというものではなく、競業避止義務の範囲(期間・地域・業種)、競業避止義務に見合う代替措置(機密保持手当等)などの点から就業規則の規定に合理性が認められなければなりません。貴社では、就業規則に競業避止義務の規定を設けているようですが、質問の内容だけではその規定に合理性があるといえるか判断しかねます。業務内容等により一概には言えませんが、競業避止義務の範囲に関しては、これまでの裁判例からすると最長2年程度の期間で、地域が同一市町村・隣接地域といった限られた範囲で(同一県内では合理的範囲とはいえないでしょう)、競業避止義務に見合う代替措置として機密保持手当等が支払われるといった規定であれば、合理性が認められる傾向にあります。貴社の規定がどのようなものか、もう一度確認してみてください。そして、貴社の就業規則の規定が合理性があると認められるものであれば、新たに誓約書をとらなくても就業規則の効力は及ぶので問題ないでしょう(従業員に意識付けするという点からすると新たに誓約書を取るのも意味があるでしょう)。
また、競業避止義務違反の場合の退職金の減額について就業規則に規定していますが、この規定だけで退職金の減額が認められるわけではありません。競業避止義務違反の場合の退職金の減額が認められるのは、長年の功労・労働に対する評価を減殺・消滅させるような場合に限られます。本件がそのような場合に該当するのか、慎重に判断する必要があるでしょう。

 

 

Q5 15年間勤務した従業員が、退職したいと申してきました。当社では、就業規則で、自己都合退職の場合は退職金を支給しない旨の規定を設けています。今回の従業員は自己都合退職にあたり、退職金を支給しない予定でいます。このような対応に問題はありますでしょうか。

A5

退職金は、法的には必ず支払わなければならないというものではありませんが、就業規則等であらかじめ支給条件が明確になっている場合は労働契約の内容となるため支払の義務が生じます。
本件では、15年間勤務しており勤続年数がある程度長期にわたるにもかかわらず、自己都合退職という点のみで退職金が支給されないような就業規則の定めが合理的といえるかが問題となりそうです。
退職金は、長年の会社への功労に対する報償としての性格を持っており、自己都合退職であっても勤続年数が
長期にわたる場合にはその間会社に貢献してきたことは否定できないでしょう。また、就業規則で支給条件が明確にされている場合、不支給とすることが妥当と言い切れるか難しいところです。そして、退職金の支給基準に、従業員の過去の功労を失わせる程の重大な背信行為がある場合に限り退職金を不支給とする定めを設けることは認められます。
本件では、自己都合退職が、従業員の過去の功労を失わせて、退職金を受ける権利を奪うほどのものであるかがポイントとなりそうです。この判断によっては、自己都合退職の場合に退職金を支給しないとする就業規則の規定の合理性が否定されることもあります。

 

 

Q6 従業員を解雇したのですが、解雇を恨んで当社の企業秘密を漏洩するのではないかと不安です。当社では、就業規則に退職後も企業秘密を守らなければならないという規定を設けており、退職者にはサインをしてもらっているのですが、今回解雇した従業員はサインを拒みました。当社としては、企業秘密を守るためにどのような対応をしたらよいでしょうか。

A6

従業員が業務上知り得た企業秘密を守る義務(守秘義務)を退職後の従業員に課すには、一般的に就業規則や個別の合意等の労働契約上の根拠が必要となります。また、退職後の守秘義務が認められるには、
①企業秘密を守るべき使用者の正当な利益が存在し、②秘密の内容等が明確になっていることが必要になります。
貴社では、就業規則に規定を設け、退職者にサインしてもらっているとのことですが、企業秘密と一言でいってもその内容は様々なものがありますので、守秘義務の対象となる秘密の内容、期間等を就業規則において明確にしておくことは重要です。そして、就業規則の規定に加えて退職時に秘密の内容について書面等により明らかにすることは望ましいことといえます。
本件では、解雇した従業員にサインをもらえなかったということですが、就業規則のほかに別途個別の合意が必要かどうかは見解が分かれるところですので、サインをしなかった従業員に守秘義務が課されないということにはならないでしょう。
しかし、従業員がサインをしなかったのには何か理由があるのでしょう。貴社が企業秘密を守りたいのであれば、解雇した従業員がサインに応じるように納得のいく説明をし話し合うのがよいと思われます。また、不正競争防止法の保護を受ける「営業秘密」の場合、不正使用等の差止め請求や損害賠償請求が可能であり、違反者には刑事罰が科されるので、貴社の企業秘密が「営業秘密」に当たるのであれば、この点も説明もするとよいと思われます。
なお、貴社のいう企業秘密は守るべき正当なものですよね。そうと言いきれないものであるならば、解雇した従業員に守秘義務を守らせるための対策よりも、貴社の行っていることを一度見直すべきでしょう。

 

 

Q7 当社の従業員でうつ病という診断を受け休職していたA氏が、この度復職を申し入れてきました。その際、軽作業であれば就労が可能であるとの主治医の診断書を持参しています。当社としては、心の健康問題はデリケートな問題ですので慎重に対応する必要があると考えています。現時点では、原職への復帰は困難と判断し、パソコンの入力作業等の簡単な事務作業に従事することから復帰してもらおうと考えております。このような対応に問題はありますでしょうか。

A7

Aさんは原職に復帰することが可能な程度にまでは回復していないということですが、原職業務よりも軽易な事務作業等に配置できるということであれば復職を認めることも可能ですので、貴社の対応に問題はないと思われます。
ただ、うつ病などの心の健康問題の場合、症状が様々であり完治したかどうか判断することは容易ではありませんので、本人や主治医の意見を聞き症状を把握したうえで、リハビリを兼ねての短時間勤務から始め徐々に職場に慣れるように配慮する等の対応が必要でしょう。その際、他の従業員の理解も必要となりますので、復帰する職場の関係者には必要な情報を提供し従業員の理解を得るよう指導し職場環境を整備することも必要でしょう。

 

 

Q8 経営不振により店舗を閉鎖することになり、従業員に解雇の通知をしました。その後、1人の従業員から未消化の年休が解雇日までに消化できないので未消化分の年休を買い上げてほしいと言われました。当社としては、未消化分の年休を買い上げなければならないのでしょうか。

Q8

使用者には従業員が年休を享受することを妨げてはならないという義務はありますが、未消化の年休を買い上げる義務はありませんので、貴社が未消化分の年休を買い上げる必要はありません。しかし、店舗閉鎖日まで従業員と良好の関係を維持すること、後日、引き継ぎ等で年休を消化できなかったとして損害賠償請求されるといった事態を避けること等を考えると、未消化分の年休を買い上げる義務がないから買い上げないとするよりも、何かしらの対応をとる方がよいと思われます。具体的には、引き継ぎや残務処理等で年休の取得が困難な状況にあるならば、退職日以降に別途有償で処理する、退職日を繰り下げる等、年休の買い上げとは別の方法を従業員に提案し、円満に解決する方向で話し合ってみるのがよいと思います。

 

 

Q9 当社では、この度、経営の合理化を図るためにある部門を系列会社に委託することにしました。それに伴いまして、当該部門の従業員に系列会社に出向をしてもらおうと考えています。この場合、どのような点に注意すればよろしいでしょうか。

A9

本件の出向が、貴社に籍を置いたままの在籍出向の場合、個々の従業員の同意を得なくても出向を命ずることができるとされています。ただし、トラブルを避けるためにもできる限り従業員の同意を得るように努めるのがよいでしょう。
これに対して、本件の出向が貴社に籍を置かない移籍出向の場合は、原則として従業員の同意が必要となります。移籍出向の場合、それまで勤務していた会社との労働契約が解除され、出向先の会社と新たに労働契約を結ぶことになるので、従業員にとっては、出向後の労働条件が低下する可能性があります。従業員にとっては、所属会社がこれまで務めていた会社から出向先の会社に変わり労働条件が変化する可能性があるということは重大問題です。貴社としては、従業員に出向先での労働条件を説明し、従業員が十分納得したうえで同意を得るように注意する必要があります。

 

 

Q10 当社では、従業員が望んで研修を受けるような場合には、会社が研修費用を従業員に貸し出して、一定期間勤務した場合に返還を免除するという規定を設けています。今回従業員の一人が、研修を受けることを希望したので研修費用を貸し出しましたが研修後に会社を辞めたいと申し出ました。規定されている一定期間勤務していないため、研修費用全額の返還を求めたいのですが、可能でしょうか。

A10

貴社の設ける上記規定が違約金と賠償予定の禁止を規定する労基法16条に違反しないかどうかが問題となります。労基法では、従業員が強制的に働かされたり、使用者の不当な拘束を受けるおそれがないために、違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことを禁止しています。本件研修が業務遂行と関係なく従業員の自由意志に基づき従業員個人の能力の向上のためのものであるならば、上記規定は、雇用契約と別の金銭消費貸借契約と考えられ、労基法16条に違反しません。
しかし、本件研修が業務遂行上必要である場合には、業務遂行のための費用として会社が負担しなければならない費用となりますので、上記規定は従業員を不当に拘束し退職の自由を奪うものと考えられ労基法16条に違反し無効となります。本件研修がどのようなものであるのか調査したうえで、労基法16条に違反しないのであれば、研修費用の返還を求めることはできるでしょう。また、研修を受けるほどの意欲のある従業員であるならば、辞める理由を聞いて、状況によっては引きとめるというのも1つの方法ではないでしょうか。

 

 

Q11 研修期間を終え販売員になった従業員が、その1カ月後に仕事が合わないので辞めたいと言ってきました。この従業員は、まだ営業成績を上げていません。当社としては、営業成績もなく、短期間で辞めた場合に、研修経費の返還を求めたいと思っているのですが、可能でしょうか。

A11

研修費用は、業務遂行に必要とされる一般的な教育訓練のための費用と考えられます。このような費用は、使用者が負担すべきものです。たとえ従業員が営業成績を上げずに短期間で辞めたとしても、当該従業員に研修費用の返還を求めることはできません。この場合、継続して働いてもらえるように従業員と話し合ってみてはどうでしょうか。従業員は辞める理由を「仕事が合わない」と言っているようですが、それがどういうことなのかを聞き、配属先の変更等をすることで従業員が継続して働けるのならば、そのような措置をとり引き続き働いてもらい営業成績を上げてもらった方が会社にとっては良いように思えます。

 

 

Q12 当社では3カ月の試用期間を設けています。試用期間満了時に当社の期待する技能レベルに達しない社員について、本採用を拒否することはできるのでしょうか。

A12

試用期間満了時点で、一定の技能レベルに達していないとしても簡単に本採用を拒否することはできません。試用期間中の会社と従業員の関係は「解約権留保付労働契約」と扱われ、「本採用の拒否」は労働契約の解約すなわち解雇の問題ということになります(採用の問題ではないのです)。試用期間満了後の解雇の場合、一般の解雇よりも広範囲に解雇の自由が使用者には認められてはいますが、解雇する場合と同様に本採用拒否について客観的に合理的理由が存在し、社会通念上認められなければ後に無効と判断されることがありますので、貴社としてはそのことを念頭において慎重に対応する必要があります。貴社は、本採用のための要件(どの程度の技能レベルに達していればよいか等)を就業規則等で定め社員に周知していましたか。また、社員が一定の技能レベルに達するよう指導し記録に残してありますか。それらをしていない状況ですと、本採用拒否は難しくなりそうです。ただし、本採用拒否が難しくとも、そこで本採用を拒否しておかないと本採用後の解雇となるとますます難しくなりますし、本採用後の解雇の場合には賠償金額も大きくなります。貴社としては、この点も考慮したうえで、試用期間満了時点で本採用を拒否するのか、あるいは従業員と話し合い試用期間を1-2ヶ月延ばし技能レベルの上達を待つ等の他の方策をとるのか、対応を考えてみてください。

 

 

Q13 当社の求人票には、賃金については、月給制で、3カ月の試用期間経過後は基本給20万円、技能手当3万円、通勤手当1万円と記載し、採用面接においてもそのように説明しています。この条件でA氏を採用しましたが、試用期間を経過しても期待していた技能の上達が見られません。そこで、あと2-3カ月試用期間中の賃金で様子を見たいのですが、そのようなことは可能でしょうか。ちなみに、3カ月の試用期間中の賃金は基本給17万円、技能手当1万円、通勤手当1万円です。

A13

求人票の記載に加えて採用面接においても同様の説明がされていることからすると、A氏との労働契約は、求人票記載の条件で成立していると考えられます。成立した契約内容の変更にはA氏の同意が必要になります。A氏が貴社の提示する条件に同意しているならば問題ないでしょう。しかし、A氏が同意しない場合は求人票記載の条件で賃金を支払わなければなりません。従業員にとって賃金の額の増減は重要事項ですので、説明を尽くし十分納得したうえでの同意を得るように話し合いましょう。説明の際には、貴社が期待していた技能レベル、そのレベルに達していないと判断した理由、今後そのレベルに達した場合に求人票記載の条件にすること等を具体的に説明するとよいでしょう。
また、今後同様のトラブルを防ぐためにも、求人票には、一定の技能レベルが期待されておりそのレベルに達しない場合には労働条件が異なる場合があることを明示しておくのがよいでしょう。

 

 

Q14 当社では、採用時点では「県外勤務は無い」と説明していましたが、数年が経ち、取引先との関係から転居を伴う県外勤務の必要性が出て来ました。このように当初予定されていなかった転居を伴う県外転勤を命じることはできるのでしょうか。

A14

採用時点で「県外勤務は無い」と説明していることからすると、労働契約締結の際に勤務地を限定する旨の合意がなされたと解されます。この場合、個々の従業員の同意があれば転居を伴う県外転勤を命じることができますが、従業員の同意が得られない場合には転居を伴う県外勤務を命じることはできないでしょう。まずは、従業員の同意が得られるように十分話し合ってください。転居を伴う転勤は従業員にとって大きな影響が生じますので、話し合いの際にはその点を十分配慮してください。

 

 

Q15 深刻な業績不振のため、現在雇っている正社員をパートタイマーの身分に変更し、勤務時間・賃金の減額をしたいと思っているのですが、そのようなことは可能でしょうか。

A15

勤務時間・賃金の減額という主要な労働条件を不利益に変更するものと考えられますので、従業員の同意がなければ、そのような変更はできません。深刻な業績不振が貴社の存続にもかかわるという状況にあるならば、従業員に現状を数値等を示し具体的に説明し十分な理解を得たうえで同意を得る努力をするべきでしょう(けっして押しつけたりすることのないように十分気をつけてください)。従業員との話し合いをスムーズにするために、正社員の労働契約を合意解除する場合には退職金の上積みをするなどの優遇措置を設けるといった方法も検討するとよいと思います。従業員が十分納得したうえで、正社員の労働契約について合意解除し、新たにパートタイマーとして労働契約を結ぶのであれば問題はないでしょう。

 

 

Q16 当社では毎年定期健康診断を実施していますが、従業員の中には受診しない者がいます。従業員が健康診断を受診しない場合、当社は責任を負うのでしょうか。

A16

受診しない従業員が1人でもいる場合、事業者は法令違反の責任を問われる可能性があります。事業者としては、定期健康診断を計画し受診の機会を提供し費用を負担することで健康診断の実施義務を果たしたと考えるでしょうが、健康診断日を設定し費用を負担するだけでは、実施義務を果たしたとはいえません。実施日を十分周知し、受診医療機関の指定や業務上の配慮をする等して受診しやすい環境を整えましょう。また、予備日を設けて未受診者には再度受診を指示する等の措置も取りましょう。さらに、従業員側にも健康診断の受診義務が法令上課されていることを周知し、健康診断の重要性も伝え、受診率が100%となる努力をすることが重要です。

 

 

Q17 雇っていたパートタイマーから、急遽2日後に辞めたいと言われました。そのパートタイマーとの契約期間はまだ3カ月残っています。この場合、当社としては、この申し入れを認めるしかないのでしょうか。

A17

契約期間を定めている場合、その期間中は、使用者もパートタイマーもやむを得ない理由がないかぎり、契約を解除できません。契約期間内は、使用者にはその期間雇う義務が、パートタイマーにはその期間労務を提供する義務が生じますので、パートタイマーはやむを得ない理由がないかぎり勝手に退職することはできません。やむを得ない理由があった場合でも、突然の退職により使用者が被害を被った場合には、使用者は損害賠償を求めることもあり得ます。ただし、現実には損害賠償の請求は難しいケースがほとんどですので、パートタイマーの退職理由などを考慮しながら、会社の事情を説明するなどして、残りの期間も継続して働いてもらえないかよく話し合ってみたらどうでしょうか。

 

 

Q18 消費者金融から借金をした従業員が返済しないまま失踪してしまいました。消費者金融からは当社に督促電話がかかってきて困っています。この場合、従業員を解雇しても問題ないのでしょうか。

A18

消費者金融からの借金を理由に、従業員の意思確認をせず使用者が勝手に解雇することはできません。また、従業員本人と連絡が取れず退職の意思表示の確認ができない状況において、音信不通を理由に自主退職扱いにすることは避けた方がよいと思います。まずは、住居がどうなっているか確認し、実家や親しかった人に連絡をして従業員の無事を確認しましょう。そして、戻ってこないなと思える期間(1か月程度)は待つと共に、家族がいる場合は少なくとも家族の了解をもらって退職手続をとる(法的には意味がないとしてもリスク管理としては重要です)ようにするのがよいでしょう。

 

 

Q19 従業員が消費者金融から借金をしたようで、その消費者金融から当社に給料から天引きして借金を返せと督促電話がありました。どのように対応すべきでしょうか。

A19

消費者金融から会社に対し厳しい支払い督促があったとしても、従業員の給料を勝手に消費者金融に支払うことはできません。仮に消費者金融に支払っても、会社は従業員に対し支払義務が残るので給料を支払わなければなりません。消費者金融からの督促があった場合には、供託所に税金等の控除部分を除いた給料全額を供託するのがよいと思います。供託をすることで、従業員への給料は全額支払い済みとなるので消費者金融からの督促に対抗でき、会社の経理上も従業員の給料を支払ったという形で処理できます。

 

 

Q20 派遣社員の産休と育休についてどのように扱えばよいでしょうか。

A20

派遣社員にも産前産後休業や育児休業の取得が認められます。具体的には、産前休業については請求があった場合に出産前6週間について認めなければならず、産後休業については出産後8週間与えなければなりません。派遣社員が派遣元に産前産後休暇を請求した場合、派遣元事業主は拒否することはできません。育児休業については、派遣社員から育児休業の申出があった場合は、当該派遣社員が一定の期間雇用者でない限り、派遣元事業主は育児休業の申出を拒否できず育児休業を与えなければなりません。

 

 

Q21 派遣社員に派遣元から給料が支払われていないため、このままでは辞めてしまいそうです。派遣先であるうちが代わりに派遣社員に給料を直接払うことはできないのでしょうか。

A21

派遣社員の場合、労働契約は派遣元と結ばれており、雇用主はあくまでも派遣元で派遣先との間には雇用関係はありません。賃金の支払義務は、派遣社員と労働契約を結んでいる派遣元にあります。派遣先である貴社は派遣社員の労働時間数を把握しそれに対応した派遣料金を派遣元に支払っているはずです。そうであれば、法律上は派遣先が派遣社員に給料を直接支払う責任はありません。派遣先である貴社が派遣社員に給料を直接支払うとなると、貴社は派遣料金を二重に支払うことになります。まずは、派遣元に対し、給料を支払うように求めるのがよいと思います。それでも支払われない場合には、当該派遣元との派遣契約を見直した方がよいと思われます。また、辞められては困るほど重要な派遣社員であるならば、派遣社員としてではなく貴社の社員として労働契約を結ぶのも1つの方法でしょう。

 

 

Q22 これまで、週に3日間働くということでお願いしていたアルバイトですが、勤務態度の悪さなど、お客様からの苦情等が来ています。そこで、取りあえず週に1日だけの勤務としようということで、本人に通知しました。これに対して、本人からそのような仕事のできる日数の一方的な短縮は認められないとの通知が届きました。労働審判で争うということです。何日間働いてもらうなどということは、雇い主側が自由に決めることではないのでしょうか?

A22

元々の労働契約や、就業規則の内容がどうなっていたのでしょうか。契約では明確に週3日勤務ときさいされており、就業規則でも「相談の上勤務日数の変更が出来る」程度の記載があった場合には、会社が一方的に勤務日数を減らすことは問題です。
逆に言えば、アルバイトの雇用にあたって、契約書の内容や、就業規則の内容をしっかりと見直しておくことが大切だということです。

 

 

Q23 社員が、会社の大切な情報を家に持ち帰っています。自分のコンピューターのHDDに情報をいれて、そのまま家に戻っているのです。もちろん会社の規則では禁止されています。このような社員を懲戒解雇しようと考えているのですが、問題ないでしょうか?

A23

機密情報の問題は、なかなか微妙なところがあります。そもそも、その情報が機密情報と言えるのにふさわしい内容であるのか、機密情報として十分な管理がされていたのかなどが問われます。さらに、会社のこれまでの指導や、現実の損害の有無なども、考慮されます。
基本的に、懲戒解雇とするのは、なかなか大変なところもあります。できるならば、従業員とよく話して、合意の上で退職してもらうのがベストの解決方法と言えます。

 

 

Q24 労働組合から、就業規則を見せるように言われました。会社内部の組合ではなくて、一人で加入できる労組です。おそらく、従業員が労働審判を起こすのに使用するのだと思います。見せる必要はあるのでしょうか?

A24

就業規則を組合に見せる必要はありません。ただ、その組合に加入した従業員が要求してきた場合には、見せざるを得ないので、結局は同じことになるはずです。相手方とは、根本的なところで対決していくしかないのではと思います。

 

 

Q25 就業規則をつくると、かえって会社として不利になるということを聞きました。裁判や労働審判で、就業規則の内容を取り上げられて、会社の不利になるように解釈されるということです。これは本当のことでしょうか。

A25

全くの嘘とは言いません。おかしな就業規則があったために、会社がかえって不利になったというのはよくあることです。特に、中小零細企業が、大企業の就業規則などを何も考えずに真似したときには、そういうことが起こりやすいと言えます。
1、本来払うつもりのなかった退職金を、就業規則に規定があるからということで、払わされたという事案。
2.1日の就業時間が、就業規則上7.5時間と定められていたので、それを超えた場合は残業代が発生した事案。
3.休業している従業員について、退職まで2年間の有用期間を認めている就業規則のせいで、長期間面倒を見なくてはいけなくなった事案。
これらはいずれも、就業規則などない方が良かったという事案です。十分に考えて作らないならば、就業規則を作らない方がまだリスクが少ない場合があるというのは、確かに言えるのです。

 

 

Q26 解雇した社員が、1年後に解雇が不当だと言って、労働審判を申し立ててきました。その際に、その1年間分の賃金も賠償金ということで請求して来ています。1年間何もしないでおいて、賃金だけもらおうというのは、常識的におかしくないでしょうか?

A26

確かに会社の立場からすると、納得のいかないところです。ただ、解雇が不当であり、向こうであるとされますと、その社員は会社に属していたことになります。その社員に仕事を与えなかったのも、会社の責任ということです。そういう考えから、過去分の給料も全て賠償金となるのが通常です。ただ、労働審判のレベルでは、ある程度の金額で労働委員会が和解を勧告してきますので、全額支払うということは少ないかもしれません。(この辺のところは、アメリカなどでは、解雇の後は何らかの仕事をして、損害の金額を減らすように労働者側に求められています。日本もこのような制度にすべきだと思いますね。)

 

 

Q27 成果主義の賃金体系に変更したいと考えています。仕事が出来ない社員がいるのですが、そういうものに高い賃金を支払うのは、士気の低下にも繋がります。ところが、その社員が地域の組合に加入して、組合を通して、成果主義賃金は認められないと言ってきました。自分の給料が、成果主義賃金では下がることが分かっているので、反対してきたのでしょう。しかし、会社としては何としてでも、成果主義賃金を採用したいのです。

A27

成果主義賃金が認められるかは、裁判などでも争われています。成果主義を採ることによって、会社の支払う給料の総額が減るような場合には、まず認められないと考えた方が良いと思います。実質的には賃下げのために行われたものだと、みなされてしまいます。
これに対して、給与に回す総額に変わりがない場合には、比較的認められ易くなります。ただその場合も、給料が下がる人には、一定の調整期間を設けるなどした方が、後から争いになる可能性が小さくなります。
出来ない社員に悩んでいるお気持ちは分かりますが、あまり性急に事を進めない方が、最後には良い結果を生むのではと思います。

 

 

Q28 内部通報制度についての質問です。うちの会社では、内部通報の制度を設けています。本当に問題となるような事案については、しっかり対処しているつもりです。ところが、「問題社員」が、法的に対して問題とならないようなことを「通報」してきては、大騒ぎをしています。こういう問題社員は、それなりの待遇をしないわけにいかないのですが、そうしますと、「内部通報をしたから不利益に扱われた!」と大騒ぎしてきます。ほとほと対応に困っています。

A28

この問題は、確かに頭が痛いところですね。有名なオリンパスの事件では、上司が図利先従業員に対して引き抜きをしていると通報した社員への不利益な取り扱いが問題になりました。引き抜き行為自体は、営業機密の漏えい問題などないならば、違法とまでは言えない事案が多いでしょう。そういう行為を、「通報」する社員というのは、一般的には問題社員と言われている人が多いようです。
しかし、たとえそうだとしても、やはり慎重な対応が必要になってきます。少なくとも、「通報」したことによって不利益を受けたなどとは言われないように、十分な注意が必要です。配転などするのならば、「通報」とは無関係などのような理由によるものなのかを明確にすることが必要です。さらには、後々争いになったときの為に、それらについて証拠を残しておくことも考える必要があるでしょう。

 

 

Q29 退職の場合には、社宅を明け渡してもらえると聞いていました。当社は、借り上げ社宅制度を取っているのですが、その場合でも、従業員の退職にともなって退去してもらえるということでし良いのでしょうか。

A29

借り上げ社宅ということですが、会社が借り上げて社員を住まわせているのでしょうか? それならば、退職にともなって、明け渡しを求めることが出来ます。
一方、本人が借りている住居に対して、会社が費用を負担しているだけの場合は、退職にともない負担金の支払いを止めれば済む話です。賃貸借は、かつての従業員と家主の間で継続します。

 

 

Q30 能力も低く、更に勤務態度の悪い社員について、低査定を続けていたのですが、その社員がこのたび労働組合に加入しました。そして、組合の方から、低い査定について、労働組合活動を理由とするものであり、不当労働行為として違法だといってきました。しかし、査定はそもそも組合活動とは無関係に行われているのです。組合の言うことを聞く必要などおあるのでしょうか?

A30

労働組合に入ったからと言って、能力等に応じた査定を行うこと自体は特に問題ありません。ただ、低査定の原因が、組合加入にあるのではと、疑われる可能性が残ることはやむを得ません。しかし、組合側で、査定が不当であることを立証する必要がありますので、そんなに簡単に組合の主張が認められるものではありません。会社としては、査定の原因となる事実をしっかりと準備しておいた方が良いでしょう。

 

 

Q31 うちの会社では、定年後に嘱託として再雇用しています。その場合、給与などは以前に比べて半分近くまで減ってしまいます。ところが、ある社員が、これまでと同じ仕事をしているのに、給料が半額近くになるのは不当だと文句を言ってきました。この文句に対応する必要があるのでしょうか? さらに、そのようなうるさいことを言う社員とは、嘱託契約は1年きりにして、更新を拒否したいと思いますが。こちらも問題ないでしょうか?

A31

定年後の嘱託契約において、これまでと同じ仕事をしていてもらっていたとしても、給料を下げること自体は特に違法とは言えません。現実に、半額程度に減らされることもよく聞くことです。
一方、嘱託を1年限りで更新しないことには注意が必要です。うるさいことを言うからといった理由で、更新を拒否することは違法とされる可能性が高いです。もちろん、その人の仕事ぶりが一定の基準に達していないのならば、更新拒否もあり得ます。ただ、これまでと同じ仕事をしていたのならば、急に基準に達しなくなったという説明は、なかなか通りにくいものです。給与額について会社に文句を言った報復ではないかと疑われることは避けがたいので、少なくとも慎重な対応が必要です。

 

 

Q32 女子社員が、うつ病になったということで、会社を休んでいます。医師の診断書を出してきています。ただ、会社としては、うつ病になったなどという頃はとても信じられません。会社に来るのが嫌なだけとしか思えないのです。うつ病だという主張を無視して、解雇することは可能でしょうか。

A32

本当にうつ病か怪しい場合はよくあります。たとえそうでも、医師の診断書がある以上、うつ病であることを争うのは難しいところです。病気である以上、解雇は出来ず、休業扱いにすることになります。
さらには、休業期間明けに、就業規則の規定に基づいて、退職処分とすることが出来るのかなども問題炉なってきます。相手方は、会社の責任でうつ病になったと争ってくることが考えられます。
専門家に相談して、真剣対応しないと、大きなリスクを負うことになるかもしれません。

 

 

Q33 当社の従業員同士で喧嘩が起こりました。怪我をした方の従業員が、会社にも責任があるということで賠償を請求してきました。会社が応じないと、労働審判を起こすと言われています。どのように対処すればよいでしょうか?

A33

基本的には、個人的に喧嘩をした場合にまで、会社は責任を負いません。
ただ、一方の従業員が普段から粗暴な人で、問題を何度も起こしていたよな場合ですと、それを放置していた会社の責任が問われることもあり得ます。その辺にところは、十分に注意が必要ですね。

 

 

Q34 育児休暇をとっていた女性社員が復帰してきました。ただ、会社としては、それまでの業務を続けさせるのは困難だと考えています。違う仕事に戻すことで特に問題はないでしょうか。

A34

会社としても、育児休暇中に人事異動などありますから、それまでの職場に戻すのが困難なことは当然にありりえます。従って、業務を変更すること自体は、違法とは言えません。
ただ、相手方もナーバスになっているでしょうから、よく説明すると共に、出来る限り不利益を減らすような配慮をすることが、会社のリスク管理としても大切になってきます。

 

 

Q35 中途採用の人に内定を出したのですが、その後会社の業績が急に悪くなりました。やむを得ず、内定の取り消しを伝えたのですが、納得できないので訴えると言われています。賠償金など払う必要があるのでしょうか。

A35

新卒者の場合は、内々定の取り消しについても、損害賠償が認められています。ただこれは、新入社員の場合は、卒業後の就職という大きなチャンスをダメにしてしまったことに対する賠償という事も加味されての判断でしょう。
これに対して、中途採用の場合は、どこまで損害場認められるのかは微妙なところです。ただ、内定まで出したのでしたら、相手の期待を裏切っていることは確かですから、一定の金額を支払うことで対応することは十分に考えられるところです。

 

 

Q36 ネイルサロンを経営しています。いつも遅刻を繰り返す女の子が、いくら言っても改めないので、1回遅刻するごとに1000円の罰金を取ることにしました。全部で3万円程は取ったと思います。
ところが、その子が退職するときに、支払った罰金は違法だから返せと言ってきました。返さないと、労働審判で訴えるとのことです。自分が遅刻をしているうえに、納得して払っていたものを、いまさら返す必要があるのでしょうか?

A36

本人が同意していても、制限なく罰金を取れるものではありません。特に、数分しか遅刻していない場合でも、1回あたり1000円を取っていたのでしたら、問題とされる可能性が高いでしょう。本件は、金額が大したことが無いので、相手方も労働審判など起こすことは難しいかもしれませんが、これ以上こじれる前に、適当なところで和解した方が良いかもしれません。
今後、はこのような罰金の仕組みを作る前に、専門家に相談することが望ましいでしょう。

 

 

Q37 会社が新事務所に移転したところ、従業員が体調を崩して、退職しました。ところが後になってから、体調不良は新しい事務所がシックハウスだからということで、退職は無効だなどと主張しています。こんな主張は認められるのでしょうか。

A37

本当に会社の新事務所が原因で病気になったのだとしたら、会社の責任(安全配慮義務)が問われることになります。退職自体も無効ということで、会社への復帰が認められる可能性も相当程度ありそうです。
まずは事実関係を明確にすると共に、今後の対応を専門家に相談すべきだと考えます。

 

 

Q38 労働審判とはなんですか? 普通の裁判とは違うのですか?

A38

個々の労働者と使用者が、労働問題について紛争が生じた際、裁判所に解決を申し立てる手続です。法律の規定にとらわれずに、柔軟な判断がなされることが特徴です。

 

 

Q39 法律の規定にとらわれない解決とはどういうことでしょう。

A39

例えば、解雇が無効かどうかが争われているとします。裁判での決着となると、解雇が無効化有効か、まさに0か100かの解決なります。
しかし、労働審判の場合は、「本日付で退職する代わりに、給料6か月分を支払え」といった、柔軟な解決をすることが出来るわけです。

 

 

Q40 労働審判と裁判では、手続きなどでも違いがあるのですか?

A40

裁判は、裁判官のみで判断されますが、労働審判の場合は、3人からなる労働審判団が判断します。裁判官、労働側の有識者(組合関係者等)、経営側有識者からなります。
さらに、労働審判は裁判と違い、原則として非公開です。

 

 

Q41 労働審判に不満があれば、訴訟に移行できると聞きました。そうすると、労働審判で争うだけ時間の無駄ということにならないでしょうか? 最初から訴訟で白黒をつけた方が良いようにも思えます。

A41

確かに、事件によっては、最初から訴訟で争われた方が良い場合もありそうです。しかし、現実の運用としては、労働審判で事件が最終的に解決する確率は80%を超えています。その意味では、労働審判で争うことが無駄になる可能性は低いと言えます。

 

 

Q42 労働審判を申し立てられると、どれくらいの期間で決着するのですか?

A42

申立から解決までの平均期間は、2ヶ月半です。70%以上が、3ヶ月以内に決着がついています。これは、通常の訴訟と比べて、はるかに短い期間です。

 

 

Q43 労働審判は、従業員側からしか申し立てられないのですか?会社から従業員を訴えたいことがあるのですが、労働審判を利用できればと思いまして。

A43

労働審判は、会社側からも申し立てることができます。「(従業員が主張する)損害賠償義務が、会社に存在しないこと」の確認を求める労働審判を、会社側から申し立てるケースもあります。

 

 

Q44 労働審判を申し立てられた場合、弁護士を代理人に立てないといけないのですか?

A44

弁護士を代理人に立てる義務はありません。会社の役員が裁判所に出頭して、対応することもできます。ですが、労働審判では、非常に短期間の間に、こちらの言い分を書面にまとめて、審判委員会を説得する必要があります。裁判対応の経験がほとんどない会社が、自分でやるよりも、労働審判に慣れた弁護士に頼んだほうが、確実でしょう。

 

 

Q45 労働審判では、社労士の先生に代理人になってもらうことができますか?

A45

弁護士を代理人に立てる義務はありません。会社の役員が裁判所に出頭して、対応することもできます。で法律上は、弁護士でなくても、裁判所が許可をすれば、「許可代理人」になることができます。ですが、実際には、弁護士以外の者(社労士の先生も含めて)が許可代理人になることは、非常に難しい(裁判所がなかなか許可してくれない)と言われています。

 

 

Q46 答弁書の提出期限に間に合いそうにありません。期限に遅れると、どのようなペナルティーがあるのですか?

A46

期限に遅れたとしても、即座に従業員側の申し立てが認められる(会社側が負ける)わけではありません。ですが、審判委員会の心証は悪くなりますし、会社側に不利な形で審判が進む可能性が高いです。

 

 

Q47 労働審判では、最終的に、裁判所から判決のようなものが出るのですか?

A47

労働審判は、約70%が、話し合いによる解決(調停)で終わります。話し合いで解決しない方が少ないです。ちなみに、労働審判で出されるのは、判決ではなく、審判です。というのは、労働審判は、裁判所ではなく、審判委員会という組織が運営する制度だからです(判決は、裁判所の手続きです)。

 

 

Q48 審判を申し立てられましたが、弁護士に頼む上で注意することはありますか?

A48

答弁書を作成したり、必要な証拠を集め整理するのには時間がかかります。審判が申立てられてから答弁書を提出するまで、通常30日程度しかありませんから、直ちに相談して準備を始めることが重要です。

 

 

Q49 審判を申立てられました。答弁書にはどのような内容を書けば良いのでしょうか?

A49

①申立ての趣旨に対する答弁
②申立書記載の予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実に対する認否
③答弁を理由づける具体的な事実
④予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
⑤予想される争点ごとの証拠
⑥当事者間においてされた交渉その他の申立てに至る経緯の概要
といったことを記載する必要があります。かなり専門的であるため、経験がない中、自社で対応することは注意が必要です。

 

 

Q50 労働審判の審理はどのように行われるのですか?

A50

お互いの主張書面や証拠を照らし合わせた上で、裁判官から、争点や事実の確認が行われます。最初は両当事者が立ち会いますが、個々の事実の確認や、和解交渉などは、順々に呼ばれ、個別に行われることがほとんどです。

 

 

Q51 証人を連れていくことができるのですか?

A51

可能ですが、裁判所が不必要と判断することもありますので、無駄足にならないよう事前に確認を取る場合もあります。少なくとも、前もって陳述書は提出しておいた方が、効率よく審理が進められるでしょう。

 

 

Q52 証人に対する質問はどのようになされるのですか?

A52

裁判のようなしっかりとした形式は採られず、審判官(裁判官)や審判員が、同じテーブルを囲んで、様々に質問をする形で行われます。

 

 

Q53 審判期日が3回あるならば、最初の期日に出す答弁書は簡単なものでよいでしょうか?

A53

労働審判手続は原則として3回以内に終局します。第2回期日までの審理で、調停案が示されるため、実質的には2回しか審理されません。そのため、第1回期日から充実した審理ができるように事前準備することが重要です。

 

 

Q54 労働審判は法廷で公開されて行われるのですか?

A54

労働審判は非公開で行われます。労働審判を起こされたことを容易に第三者に知られることはありません。

 

 

Q55 答弁書の提出期限に間に合いそうにありません。期限を延ばしてもらうことは可能ですか?

A55

労働審判は迅速な解決を重んじる手続でありますし、裁判所や労働審判員の予定もあるので、期日の変更を求めることは非常に難しく、原則として許されないので注意が必要です。

 

 

Q56 労働審判員はどのような人がなるのですか?

A56

労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する人とされています。具体的には、労働組合の役員や、企業の人事労務担当者などがなる場合が多いようです。

 

 

Q57 労働審判では、最終的に、裁判所から判決のようなものが出るのですか?

A57

労働審判は、約70%が、話し合いによる解決(調停)で終わります。話し合いで解決しない方が少ないです。ちなみに、労働審判で出されるのは、判決ではなく、審判です。というのは、労働審判は、裁判所が組織した労働審判委員会という組織が運営する制度だからです(判決は、訴訟における手続きです)。

 

 

Q58 調停案を拒否したら、審判が出されてしまいました。この審判は受け入れるしかないのでしょうか?

A58

審判から2週間以内に異議を出せば、審判の効力はなくなり、民事訴訟が提起されたものと扱われます。したがって、それからは、通常の民事訴訟として争っていくことになります。
労働審判に不満があれば、訴訟に移行できると聞きました。そうすると、労働審判で争うだけ時間の無駄ということにならないでしょうか? 最初から訴訟で白黒をつけた方が良いようにも思えます。
確かに、事件によっては、最初から訴訟で争われた方が良い場合もありそうです。しかし、現実の運用としては、労働審判で事件が最終的に解決する確率は80%を超えています。その意味では、労働審判で争うことが無駄になる可能性は低いと言えます。

 

 

Q59 一度審判が出たにもかかわらず、民事訴訟で結論が変わることはあるのでしょうか?

A59

労働審判は、迅速かつ簡易に、労働紛争を解決するための手続ですから、細かい証拠調べなどは行いません。民事訴訟になれば、時間はかかりますが、その分、細かく証拠を調べ、しっかりと証人尋問も行われますので、それによって結論が変わることは充分あります。ただ、労働審判も、裁判官が関与して行われる手続ですから、そこで明らかに難しいとされた主張などは、訴訟に移行しても、大きく判断が変わることはないかと思います。