不当解雇

アルバイトか正社員か争われ、わずか10日間で解決した事例

突然の労働審判

労働審判は、前触れもなく突然起こされます。この事件でも、1年前に終わったと思っていたトラブルが、労働審判という形で急に目を覚ましたのです。

会社は、すぐに弁護士に相談しましたが、その弁護士は労働審判に慣れておらず、遅々として準備は進まないどころか、書面などの作成も、会社に任せたきりでした。

会社がそのような態度に満足できず、私たちの事務所に相談してきたのは、労働審判のわずか10日前でした。

 

準備の重要性

労働審判は最大3回とされていますが、ほとんどが1、2回で終わってしまいます。また、民事訴訟と異なり、詳しい証拠の取り調べなどはしませんので、初回までの準備が非常に重要です。

限られた10日間の中で、どこまでできるか、悩みながらも準備を始めました。

 

契約の内容

この事件で問題となったのは、ある従業員が、アルバイトなのか正社員なのかといった点でした。普通は、契約書などを見れば明らかですが、零細企業や個人事業主などでは、契約書も交わさず、あまり細かい条件なども詰めないまま、「明日から来てください」といった形で契約してしまうことが多いのも事実です。

この事件でも、まさにそのような点が問題となりました。

会社としては、あくまでアルバイトの予定でしたので、会社の業務の必要性に従ってシフトを組み、仕事がなくなった時点で仕事をなくせばよいと考えていました。

そのため、ある時から、シフトを一切入れなくしたところ、それは不当な解雇だ、として労働審判になってしまったのです。

 

アルバイトか正社員か

会社の言い分は、あくまで時給制のアルバイト、従業員の言い分は、正社員、真っ向から主張がぶつかりました。

このような言った言わないの場合、どのようなやり取りがあったか説明することは非常に困難です。

私たちは、正社員であれば勤務条件など細かく決める必要があるのに、口頭のみで契約するはずがないことや、その社員が行っていた業務が非常に単純であること、同じような業務を行っていた同僚が、全員アルバイトであったことなどを明らかにしようと考えました。

証拠集め問題となるのは、協力的な同僚ばかりではないということです。

私たちは、会社に協力的な同僚を探し、理解を求めました。時間がない中で、元同僚の陳述書を作成してくれるだけでなく、最終的には、遠方に住んでいたにもかからず、労働審判当日に裁判所まで足を運んでくれました。

 

スピード解決

このように短期間ではありましたが、できる限りの準備をしたところ、アルバイトとしての時給を基本として和解金を計算した和解案が提示されました。

相手方が主張していたパワハラなどの慰謝料は一切評価されませんでしたが、従業員はその提案を受け入れ、結局、依頼からわずか10日、一回目の労働審判で和解というスピード解決になったのです。

時間もなければ証拠もないという極めて厳しい事件でしたが、その中で、できる限りの準備をすれば、良い解決も充分可能であるということを再認識した事件でした。

 

だらしない身だしなみでの解雇が争われた事例

身だしなみがだらしない社員

この事件は、従業員の身だしなみで揉めているがどうにかならないか、という相談から始まりました。

その従業員は、髪を伸ばしたり、ひげを生やしたりした挙句、ラフな服装で業務を続けているとのことでした。

会社は、何度も注意し、改善を促しましたが、個人の自由だと言って全く聞こうとせず、最終的に労働審判にまでなってしまったのです。

 

身だしなみで解雇できる?

基本的に、社員は会社に対して、「働く」ということを義務付けられていますが、そのほかにも、会社が組織で成り立っていることから、職場の秩序を維持しなければならないとも考えられています。

逆に言えば、業務に支障がなかったり、職場の秩序に影響を与えない範囲であれば、社員がどのような服装をしようが、どのような髪型にしようが、指図することはできません。

昨今は、クールビズなどの影響もあり、ラフな格好も増えていますから、社内の秩序を乱す身なりというのも、以前とはかなり変わってきていますので、この点での懲戒や解雇というのは、とても難しいのが実情です。

 

業務に支障をきたすかどうかの基準

とはいえ、会社としては、身だしなみがだらしない従業員がいれば、困る状況があることも事実です。

どれだけ困るかは、その服装や身だしなみの乱れの程度はもちろん、その社員の地位や業務の内容、会社や業務への影響など、様々な観点から検討されることになります。

私たちは、その社員が外回りで、顧客対応業務に従事していたことに注目し、取引先から、「その社員の身だしなみが気になっている」といった証言をもらいました。

さらに、同僚からもヒアリングをして、その社員以外、暗黙の了解として同じような服装を着ていることや、ひげもなく、髪も短くしていることなどの証言も集めました。

 

短期での解決

私たちは、第一回目の労働審判期日までに、これらの資料をかき集め、充分な準備をした上で労働審判に望みました。

裁判所は、服装や身だしなみでの解雇が厳しいと言いながらも、現実に会社の業務に影響を与えていることを最大限考慮し、解雇予告手当て分と変わらない程度の和解金を支払うことでその社員を退職させてはどうか、との和解案を提示しました。

もちろん、社員が求めていた多額の慰謝料などは一切認められていません。

会社としては、解雇の際に必要な程度の金銭を支払って、その社員を解雇できますから、納得の上、提案を受け入れました。

社員は悩んだようですが、裁判所からの強い勧めにより、最終的には和解を受け入れ、初回の審判で和解が成立したのです。

難しい事件であっても、頭だけでなく、足を使い、様々な証拠を集めることで、充分闘うことができるという点で、意義深い事件でした。

 

ノルマ未達により解雇したが、解雇が無効とされた事例

ノルマを達成できない上、度々指導しても業務改善がみられない従業員は困ったものです。しかし、ノルマが達成できないからといって、拙速に解雇することはトラブルの元です。この事案でも、ノルマ未達を理由に解雇したことでトラブルになりました。

 

事件の発端となったのは、ある従業員のノルマ未達が断続的に続いていたことでした。会社は、この従業員に対し、再三指導してきました。しかし、業務はなかなか改善せず、あるとき、2か月連続でノルマを達成できなかったのです。会社は、就業規則の解雇事由にあたるとして、従業員を解雇しました。

しかし、この従業員から、解雇は無効であり、従業員として復帰することを求める労働審判が申立てられました。

 

労働審判では、売上ノルマはこの業界の常識であり、従業員もこれを認識していたことや、他の従業員と比べ、ノルマ達成回数が少ないことなどを主張しました。しかし、ノルマのことを入社時に説明していなかったり、ノルマ2か月未達の場合は退職させるという合意書に従業員が署名していなかったりしたことなどが重視され、解雇は無効との審判がなされました。

 

通常、無効となるような解雇をしてしまった場合でも、労働審判となれば、退職を前提に審判が進行することが多いです。このような場合は、会社が解決金を支払い、従業員が退職することで解決となります。こういった点からは、解雇事由があるか微妙な事案では、解雇をした上で、労働審判で解決するというのも十分検討に値する方法です。

しかし、この事件では、従業員が雇用の継続を強く希望しました。このような例外的な場合で、解雇が無効となるときには、雇用継続を前提とした話合いにならざるを得ません。

その後、審判を不服として、訴訟に移行しましたが、最終的には従業員が職場復帰することを内容とする和解となりました。ただ、職場復帰の条件を詰めるにあたって、ねばり強く交渉した結果、バックペイ金額を減額し、配置転換した上での復帰ということで解決することができました。

 

解雇してしまってからでは、事実を変えることはできません。解雇する前に、弁護士に相談し、解雇できる場合なのか慎重に検討することが重要です。しかし、労働審判になってしまった場合には、その中でよりよい解決を目指すしかありません。この事件は、厳しい状況でも粘り強く交渉していくことで、ベターな結果が得られることを再確認できた事件でした。

 

セクハラ社員を民事・刑事両面から追い詰めた事件

「先輩から無理やり抱きつかれてキスをされました。」

涙ながらに訴える女性アルバイトの話を聞いて、社長は激昂しました。
すぐに問題社員を呼び出して追求したところ、問答の末、ようやくセクハラの事実を認めたので、その場で懲戒解雇しました。

 

それから半年後、突如として問題社員が、でっち上げセクハラで不当解雇されたと主張して、労働審判を起こして来ました。

労働審判の対応を依頼された当方は、女性アルバイトにヒアリングしたところ、今回の労働審判に非常にお怒りでした。それもそのはず、懲戒解雇に納得して、ひとまずそれで済ませていたのに、セクハラをでっち上げだと言われたのですから。
そこで当方は、女性アルバイトの意志を十分に確認の上、セクハラ行為を警察に告訴しました。

 

労働審判の当初は、セクハラがでっち上げだと主張していた問題社員も、警察が告訴を受理して捜査を開始したことを知ると、一転して弱腰になりました。

労働審判では決着がつかず、訴訟に移行しましたが、訴訟の中で、会社側に有利な形で、和解をすることが出来ました。

 

不当解雇について当事務所の考え方について

従業員の無能を理由にした解雇

■典型的な弁護士の考え方

無能を理由にした解雇など、認められません。争うだけ無駄だから、諦めて復職を認めなさい。

 

■横浜パートナー法律事務所の考え方

無能を理由にした解雇が認められにくいことは間違いありません。

しかし、会社側の主張をしっかりとして行く中で、より良い解決を見つけていくことは可能です!

 

不当解雇でいただくご質問

 

Q1 即戦力となる社員を採用したいと考え、同業他社での勤務経験と実績のある人間を、高待遇で中途採用しましたが、能力不足だったので解雇したところ、不当解雇と主張されました。このような場合でも、不当解雇になるのでしょうか。

A1

一般的に、能力不足を理由に社員を解雇することは、非常に難しいです。

解雇する前に会社が、その社員の能力を改善・向上させる取り組みや、配置換えなどの措置を、十分に行ったのか、という点が厳格に判断されるからです。

その一方、一定以上の能力があることを前提として、高待遇で中途採用された社員の場合は、通常の社員よりは、解雇が認められやすいです。

ただ、そのような解雇をするためには、採用時に、成果目標が具体的な数値として定められているなど、会社の求める能力を明確にしておく必要があります。

そこで、即戦力を期待して中途採用する場合には、以下のような対策を取りましょう。

① 雇用契約書に、会社が求めている知識・技能・技術などの水準を具体的に規定し、それらが満たされなかった場合には退職を求めることで合意しておく

② 3年程度の有期雇用契約にする(能力不足の場合は、雇用契約を更新しない)

③ 試用期間を長めに設定し、正社員として採用する場合は、試用期間終了時に改めて選考することで合意しておく

 

 

Q2 違法行動を起こした社員がいます。懲戒解雇事由に該当することが明らかなので、懲戒解雇しても、問題ないですか。

A2

違法行為を起こした社員でも、法律上容易に解雇できるものではありません。

まず、会社から見れば相当の違法行為だと思えても、なお客観的にみると解雇の理由には足りないとされる場合があります。

さらに解雇は、厳格な手続きに則って行われる必要があります。

仮に、客観的には解雇の理由があったとしても、解雇に至る手続きが完全に履行されていない場合には、解雇が認められない場合もあり得ます。

たとえその場では解雇を認めている場合でも、後から解雇の有効性を争ってくるようなケースはあり得ます。

そのようなリスクをなくすために、解雇というやり方ではなく、できる限り当事者との合意による退職という形をとることが望ましいと言えます。

 

 

Q3 うつ病になったと主張して、会社を休み続けている社員を解雇することはできますか。

A3

うつ病の原因次第です。

業務上の病気のために出勤できない社員については、療養期間及びその後の30日間は、解雇することが法律上禁止されています。

そのため、うつ病の原因が、上司のパワハラなどにあるのであれば、業務上の病気ということで、療養期間及びその後の30日間は、解雇することができません。

一方、私的な病気のために出勤できない社員については、このような禁止規定はありませんが、回復見込みがあるのであれば(一時的なものであれば)、解雇が無効になります(不当解雇になります)。

そのため、うつ病の原因が、私生活上でのトラブルにあるなど、私的な病気であり、かつ、回復見込みがないのであれば、解雇ができます。

 

 

Q4 解雇した社員が、解雇無効を争う裁判を起こして、労働審判や裁判で解雇が無効と判断された場合、どうなってしまうのですか。

A4

解雇が無効になるので、その社員は、復職することになります。

そして、(無効な)解雇日から、復職までの期間分の賃金を、支払わないといけません。この間、その社員は、一切仕事をしていないにもかかわらず、です。

さらに、悪質な解雇事案では、「付加金」として、復職までの期間分の賃金と同額を、プラスアルファで支払わされることもあります(付加金は、通常訴訟で支払いを命じられる制度です。労働審判では、支払いを命じられることはありません)。

 

 

Q5 長年にわたって契約を更新していた契約社員について、来年は更新しないことを伝えたところ、不当解雇だと主張されました。契約社員の契約を更新するかどうかは、会社の自由でないでしょうか。

A5

期間の定めのある有期労働契約は、更新しない限り、期間満了により終了するのが原則です。

しかし、長期継続雇用を期待させるような言動(「真面目に働いていれば契約期間が満了しても解雇されない。」など)を会社が行った場合は、雇い止めが出来なくなる可能性があります(不当解雇のように、扱われてしまいます)。

また、特にそのような言動がなくとも、更新が何回も行われた場合も、雇い止めが認められないリスクが増加します。

厚生労働省は、更新が3回以上行われた場合において雇止めを行うのであれば、契約期間満了の30日前までにその旨の予告を行うよう要請しています。

従いまして、3回以上の更新は、雇止めが難しくなる一つの目安になると思われます。

雇止めができなくなる事態を防ぐためには、以下のような対策があります。

① 更新の可否の基準及び契約期間を、契約書において明確に規定する。

② 更新の度に契約書を作成する。

③ 更新の回数を3回までとするなど、ルールを明確にしておく

 

 

Q6 会社の業績が悪化した場合、リストラとして、社員を解雇することができますでしょうか。

A6

業績が悪化したからといって、自由に社員を解雇することはできません。

このような場合の解雇を、「整理解雇」といいますが、整理解雇をするためには、以下の4要件を満たす必要があり、そのハードルはかなり高いです。

① 人員削減の必要性があること

② 会社が解雇を回避するための努力を尽くしたこと

③ 解雇される社員の選定が合理的なものであること

④ 組合や社員に対して解雇に関する協議や説明を行ったこと

 

 

Q7 整理解雇の4要件の内、「① 人員削減の必要性があること」とは、どのような場合ですか。

A7

経営が悪化していることです。会計資料や、整理解雇の決定前後の役員報酬の資金状況、毎月の負債返済額など、客観的資料から見て、経営が悪化しているといえることが必要です。

整理解雇の4要件の内、「② 会社が解雇を回避するための努力を尽くしたこと」とは、どのような場合ですか。

整理解雇前に希望退職募集を実施していること、新規採用を停止していること、経費削減の取組状況、賃金カットなどの支出削減努力、売上増への具体的取組などが必要になります。