判例 セクハラに対する出勤停止及び降格の懲戒処分の有効性

「最高裁判所平成27年2月26日判決 民集249号109頁」(海遊館事件)

第1 はじめに

 今回は、いわゆるセクハラに対して下された出勤停止という懲戒処分の有効性についての判断を示した裁判例をご紹介させていただきます。
 出勤停止や降格は一般的には「懲戒解雇」に次ぐ重い懲戒処分です。企業側がこのように重い懲戒処分を下すにあたって、当該従業員に対して警告や注意などの措置を講じなかった点をどう考えるかが主な争点となりました。
 結論として、最高裁判所は、出勤停止及び降格の懲戒処分は有効であると判断しています。
 懲戒処分の有効性については事件ごとに細かい事実関係の検討が必須ですが、本裁判例を一つの基準としてご参考にしていただけると幸いです。

 

第2 事案の概要

 管理職に就く従業員Xら(原告、控訴人、被上告人)が、Y社(被告、被控訴人、上告人)から、社内でのセクハラを理由に出勤停止(それぞれ30日と10日)及び降格の懲戒処分を受けた。
 Xらは、Y社に対して、当該懲戒処分は無効だとして、懲戒処分無効確認を請求する訴訟を提起した。
 なお、セクハラを受けた女性従業員Aは退社を余儀なくされている。
 Xらは、Aに対して、1年以上に渡り、下記のような発言を繰り返していた。
 ・「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」
 ・「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」
 ・(館内の女性客を指して)「今日のお母さんよかったわ…。」「かがんで中見えたんでラッキー。」

  「好みの人がいたなあ。」
 ・「いくつになったん、もうそんな年になった。結婚もせんでこんなところで何してんの。親泣くで。」

 

第3 下級審の判断

 1 大阪地方裁判所の判断

   原告Xらの請求を棄却する。
   出勤停止及び降格の懲戒処分は有効である。

 

 2 大阪高等裁判所の判断

   控訴人Xらの請求を認容する。

   出勤停止及び降格の懲戒処分は無効である。

 

第4 最高裁判所の判断(確定判決)

 1 結論

   出勤停止及び降格の懲戒処分は有効である。

 

 2 判旨の要約抜粋

    ⑴ 同一部署内において勤務していたAらに対し、Xらが職場において1年余にわたり繰り返した発言等の内容

      は、いずれもAらに対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感を与えるもので、職場における女性従業員に対す

      る言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当

      該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を将来するものである。

 

    ⑵ Y社では、職場におけるセクハラの防止を重要課題を位置づけ、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員ら

      に周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、セクハラの防止

      のために種々の取り組みを行っていた。

 

    ⑶ Aは、Xらのこのような行為が一因となって退社を余儀なくされている。

 

    ⑷ 高等裁判所は、XらがAから明白な拒否の姿勢を示されておらず本件各行為のような言動も同人から許されて

      いると誤信していたなどとして、これをXらに有利に考慮している。しかし、職場におけるセクハラ行為につ

      いては、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念し

      て、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少

      なくないと考えられるため、高等裁判所のいうような考慮はすべきでない。

 

    ⑸ 高等裁判所は、Xらが懲戒処分を受ける前にセクハラに対する懲戒に関するY社の具体的方針を認識する機会

      がなく、事前にY社から警告や注意等を受けていなかったなどとして、これらをXらに有利に考慮している。

      しかし、Y社では上記⑵のような取組を行っていたことからXらとしてはY社の取組や方針を当然に認識すべ

      きであったし、Xらの行為は第三者のいない場所で行われていたことからそれをY社が認識して警告などする

      機会がなかったため、高等裁判所のいうような考慮はすべきでない。

以上

 

 

(平成31年1月9日発行 文責:佐山洸二郎)