判例 被用者の交通事故につき会社が損害の7割負担した事件
「佐賀地判平成27年9月11日労働判例1172号81頁」
第1 事案の概要
本件は、Y社の被用者であるXが、Y社車両を運転し、駐車場で後退させる際、後方確認不十分で、停車中のA車両に衝突させ、Y社車両およびA車両の双方が損傷した物損交通事故(以下、「本件事故」)について、Xが、A車両の所有者に賠償金38万2299円を支払ったことから、同賠償額の支払い(求償)をY社に対して求めた事案(①本訴)と、Y社が、Xが起こした本件事故によりY社が所有する車両(以下、「Y社車両」)が損傷したと主張して、Xに対して修理代金として8万698円およびこれにかかる遅延損害金の支払いを求めた事案(②反訴)である。
第2 裁判所の判断
1 本訴について
「被用者がその事業の執行につき第三者に対して加害行為を行ったことにより被用者(民法709条)及び使用者(民法715条)が損害賠償責任を負担した場合、当該被用者の責任と使用者の責任とは不真正連帯責任の関係にある」とし、使用者が責任を負う理由としてはいわゆる報償責任から、「被用者がその事業の執行について他人に損害を与えた場合には、被用者及び使用の損害賠償債務については自ずと負担部分が存在することになり、一方が自己の負担部分を超えて相手方に損害を賠償したときは、その者は、自己の負担部分を超えた部分について他方に対し求償することができる」としたうえで、Xは九州地方でのエリアマネージャーとして雇用されており、(長野県に本拠を置く)Y社の事業拡大を担う立場として業務を行っていたこと、Xの業務は、九州地方における取引先の開拓や野菜の運搬などであり、その性質上、事故発生の危険性を内包する長距離の自動車運転を予定するものであったこと、Xは本件事故発生前後の平成25年4月および5月においても少なくとも8日間を除きY社の業務について稼働するなど業務量も少なくなかったこと、本件事故における過失内容も車両後退時の後方確認不十分であり、自動車運転に伴って通常予想される事故の範囲を超えるものではないこと等の事情を総合すると、「Y社とXの各負担部分は7対3と認めるのが相当であり、D工業に対し損害額全額の賠償をしたXは、その7割についてY社に対し求償することができる」とした。
2 反訴について
事業の執行についてなされた被用者の加害行為によって、使用者が直接損害を被ったり、使用者としての損害賠償責任を負うことになった場合には、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができる」とする茨城石炭商事事件(最一小判昭51.7.8民集30巻7号689頁)の基準を引用して、「Y社がY社車両の損傷により直接被った損害のうちXに対し賠償を請求できる範囲は、信義則上、その損害額の3割を限度とするのが相当」とした。
(平成30年9月5日発行 文責:下田和宏)